ジュニアアンサンブルに混ざってきた(1回目)

去る6月10日、アンサンブルの練習へ参加してきた。

このアンサンブルは、レッスンでお世話になっている先生が指導している。

正式な団体名は、「Kジュニアアンサンブル」という。しかし、大人も混じっていると先生からは聞いていた。


練習場所は、K駅から歩いて10分程度の場所にある、公民館だった。

小学校を公民館に改築した建物だそうだ。段差の低い階段といい、小さめの扉といい、確かに小学校のつくりである。

ただし、私が通っていた小学校に比べると、すみずみまで清潔で、埃っぽさがない。トイレには、手すりや音姫が設置されていた。


もともとは音楽室だったと思われる学習室へと向かう。

中では、女の子がひとりと親子が3組(お母さんが3人、男の子が3人だったと思う)が輪になり、先生の歌に合わせてヴァイオリンを弾いていた。

A線のラとシを使った、8音くらいの練習曲だ。


先生に、「ゆずさん、もう少し待っててね」と言われたので、輪からはずれた場所に行き、ケースを開き、弓に松脂を塗りつけ、置かれていた椅子に座った。

すこし離れた場所に、もうひとり、レッスンには参加していない女性が座っていて、レッスンの様子を柔らかな眼差しで眺めていた。

誰かの付き添いだろうか、と思いかけたが、傍らに、開かれたままのヴァイオリンケースと飴色のヴァイオリンが置かれていたので、参加者だと察した。

どうやら今は、子供と親子のグループレッスンの時間で、それが終わるとアンサンブルの練習が始まるようだ。


10時になり、先生が「毎日練習してね。そうしたら、スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャスも弾けるようになりますからね」と締めくくり、グループレッスンは終了した。

レッスンの間にもたびたび出てきたが、スーパーカリフラワー? ってなんぞや。


親子がひと組帰っていったが、残りの生徒は、このままアンサンブルに参加するようだ。私も、ヴァイオリンを抱え、譜面台のある席へ移る。

「ここへは迷わず来られた?」と先生に声をかけられた。大丈夫でした、と答えつつ、譜面台に楽譜を広げ、「スーパーカリフラワー……? ってなんですか?」と雑談ついでに軽く聞いてみた。

すると、先生は「えっ……」とうろたえ、「楽譜、渡してなかった?」とおっしゃる。スーパーカリフラワーなんちゃらって、曲名だったのか!

先生から「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」の楽譜をもらい、あわあわと目を走らせる。ほぼ、ラとシとミとソで構成されている。これなら初見で弾ける! 心の中で、ポーズをとる。セーフゥ!

「あっ、(「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」の楽譜を渡してない)ということは、カノンも渡してないわよね?」と先生。

もう1枚、楽譜が差し出された。ひい、とおののきつつ(も顔には出さずに)受け取り、譜面を眺める。私が以前弾いたカノンを半分くらいに縮めた、簡易版のカノンのようだ。

弾けるだろうか。こそこそと小さく音を出し、確認。いけそうな気もするけれど、いろいろと忘れている。サビのところは指が回らないかもしれない。スラーの位置もだいぶ違う。たぶん、ちゃんとは弾けない。アウトォッ!


アンサンブルの前に、先生が、メンバーに私を紹介し、それから、メンバーを私に紹介してくださった。

親子で習っている人や、ご主人や息子が弾いていたが今は自分だけが弾いている人など、さまざまだ。


それから、ゆるゆると練習が始まった。

まずは「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」から。

この難解なタイトルは、かのメリーポピンズが唱える呪文からきているそうだ。

先生や女の子は、このタイトルをまるっと暗記している。私には憶えられそうにない。

曲はとても易しい。

ただ、周囲の人が出す音が小さいからか、あるいは私に周りの音を聞く余裕がないからか、ヴァイオリンではない楽器が遠くで鳴っているかのように感じる。私の音も、他の人から聞くとこんな感じなのだろうか。


「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」の次は「きらきら星変奏曲」、その次は「カノン」、最後に「天国と地獄」。曲の難易度が、だんだんとあがる仕組みになっているようだ。

その曲を弾きたい人・弾ける人が残り、弾かない人・興味のない人・弾き疲れた子が帰ってゆく。入れ替わるように、人が増えることもある。

ひとつの曲をねちっこく弾いて突き詰めるといった感じはなく、先生が指導を入れ、もう一度通し、あっさりと次の曲へと移行する。

休憩も、こまめに入る。子供が飽きないように、疲れないように、楽しめるように、嫌な気持ちにならないように、先生が気を配っているのが伝わってきた。


上下パートの担当はとくに決まっておらず、その場で、弾きたいパートを先生に申告する。

ひとつの曲で、1stと2ndの簡単なところをより抜いて弾くのもありだ。

「きらきら星変奏曲」は、前半は1stパートが易しく、後半は2ndパートが易しいので、1stと2ndを切り替えて弾く人が多く、1stを通して弾く人はひとり(さきほど、グループレッスンを眺めていた女性)、2ndを通して弾くのもひとり(私)となった。つまり、曲の前半は、私のみが2ndを弾く。合わせられるように家で練習してきたつもりだが、なにせ私はリズム音痴なので、「合ってるだろうか。微妙にずれていたらどうしよう……」とびくつきながら弾いた。

通し終えたところで、先生から、「ゆずさん、みんなで弾くのは楽しいでしょう?」とにこにこと問われ、「楽しいけど、緊張しています……」と正直に答えてしまった。今日は来ていないが、いつもは高校生の子が2ndを弾いているそうだ。


「カノン」も、弾ける人は最初から最後までを弾き(速度がゆっくりだったので、私はなんとか最後まで弾いた。が、スラーをつける余裕はなかった)、弾けない人は最初の方の旋律を繰り返し弾くようになっている。これなら、初心者でも楽しく合奏できるだろう。よくできているなあ、と思った。

「カノン」の1回目の通し。パートごとの音がばらばらにずれてゆき、先生からストップがかかった。

最後まで弾いた、私と、お母さんひとりの計ふたりで、先生の手拍子に合わせ、曲の一部をあらためて弾かされる。つまり、演奏のずれの原因は、私とそのひとにあるということだ。否、もしかしたら私が元凶かもしれないと、不安が募る。何度も書いたが、リズムに関して、私は自信がない。

「カノン」は、前の教室にいた時に、たくさん弾いた。毎年の発表会でも、練習会でも。たぶん、累計すると、一番多く弾いてきた曲ではないだろうか。

しかし、一緒に弾いた、前の教室の生徒さんも、夫も、知人のsskさんも、私の音を聞いて、揃えてくれた。私が規則正しく弾けない箇所があれば、その場で微調整を加え、つじつまを合わせてくれた。多少走っても、一緒に走ってくれた。私は、そうした人たちの胸を借り、引っ張ってもらっていたのだ。夫に至っては、私の癖を知り尽くしている。逆に、私が夫の癖に合わせることもある。

しかし、今日参加しているアンサンブルグループには、私ができないところをカバーしてくれる人はいない。当たり前だ。私自身が、人の音を聞いて寄り添うか、あるいはメトロノームのごとく、きっちり弾けなければだめだ。ああ、練習せねば。


アンサンブルは2時間あるので(グループレッスンを受けている人はもっと長い)、途中から、男の子が、何度も椅子にのぼっては飛び降りたり、押し車のようにガタガタと椅子を引きずったり、床に寝ころがってダンダンと足踏みしたりと暴れはじめた。

いつものことなのか、みんな涼しい顔で演奏し続けている。私もだんだん慣れてきて、黙々と弾いた。

男の子があまりに激しく暴れる時は、先生がやさしく取り押さえたり、親御さんが注意したりする。

しかし、ほとばしる男子パワーは収まる気配がない。

普段、この男の子の面倒を見ているお母さんは、大変な思いをしていると思う。

こんなふうに、子供連れてヴァイオリンを弾ける場があるのは、いいことだ。

男の子は男の子で、暴れることはあっても、「帰りたい」とは一言も言わなかったし、泣くこともなかった。彼は彼なりに、お母さんを気遣い、長い時間、待ってあげていたのだろう。優しい子だ。


そうして、2時間はすぐに過ぎた。

もっと弾き込みたいな、と何度か物足りなく思ったものの、楽しかった。否、楽しいから、もっと弾きたかったのかもしれない。

このアンサンブルの練習は、ひと月に2回ある。難しい曲はないし、ひと月に1回行けばいいか、と甘く見積もっていたが、フルで参加した方がいいのかもしれないな。今にはじまったことではないが、自分のリズム感のなさに、ほとほと呆れた。